[法学部] 九国大出身警察官インタビュー-リスクマネジメントコース特別企画-


九州国際大学法学部リスクマネジメントコース特別企画
-法学部オリジナルパンフレット「警察官OB対談」(全文掲載)-

「警察官とはどのような職業か」(公務員に強い九州国際大学法学部)

〜九国大出身警察官インタビュー〜

八幡大学の時代から警察官を多く輩出してきた九州国際大学。本学OBであり、福岡県警と広島県警で活躍中の警察官(警視)二人に登場していただき、変化しつつある警察の仕事、これからの警察官に求められる能力などについて、小学校での学生防犯ボランティア活動の推進や警察との連携活動に取り組んでいる本学教員を交えて、大いに語っていただいた。

20140520law1広島県警察本部 地域部 通信指令官
警視 小西 明 氏(法学部1983年卒)
福岡県警察 小倉北警察署 生活安全管理官
警視 佐矢野 俊 氏(法学部1984年卒)
法学部教授 山本 啓一
インタビュアー 原口 弘美

― お二人の警察官としての経歴からお話しいただけますか?

20140520law1-2小西 警察学校卒業後2年半の交番勤務、4年のパトカー乗務、巡査部長昇進後は刑事として殺人・強盗などの強行犯捜査や初動捜査を担当。刑事特別研修生として1年の研修を受けましたが、警部補に昇任したとたんに生活安全部門に。主として防犯対策を担当することになり、警部昇任後は警察署の生活安全課長や警察本部の生活安全担当課長補佐を。警視昇任後は犯罪情報官(防犯情報を県民に周知する役割。全国でも広島県だけ)として、テレビの企画やレギュラー出演を2年ほど担当したこともあります。その後、今年の春まで警察庁に2年間出向し防犯対策を担当しました。この春からは、110番指令の統括責任者をしています。

佐矢野 私は2年の交番勤務の後、捜査(盗犯捜査)を経験して、刑事として巡査部長・警部補まで務め、知能犯係を2年経験。その後、本部総務課でデスクワークを5年、警部に昇任して刑事に戻ったのですが、県庁に2年半出向して「安心安全まちづくり条例」の制定にも携わりました。県警本部に戻ってから安全対策の担当となり、警視に昇任して生活安全課にいます。小西先輩と同じような道を進んでいることになります。

 

― 警察官といっても、いろいろな部署があり、様々な仕事をしないといけないのですね。

20140520law1-1佐矢野 そうですね。パトカー乗務や交番勤務から、捜査、デスクワーク、鑑識、通信指令、・・・。いろいろな職種があります。

小西 安全相談、犯罪の検挙・予防、交通事故防止もありますし、災害、外国との国家の関係も警察の仕事です。1年や3年のサイクルで異動する人もいれば、ずっと変らずに同じ畑を歩いている人もいる。私は刑事の後で約15年生活安全を担当しているという意味で、ちょっと珍しいケースではないでしょうか。若いうちは職種の希望も出せるし上司が適性を見ていますが、ある程度階級が上がるにしたがって、組織として求めるものが出てくるので、急に生活安全に行きなさいといったように、自分の思っているものと違う仕事をしないといけないことはあります。

 

― 警察官としてどんな資質が必要でしょうか。

佐矢野 ひと言で言うと、多様性だと思います。正義感や体力はもちろん必要ですが、いろんな仕事もありますし、いろんな人と接しなければいけない。すべての人間と接することができ価値観を受容できることが必要です。もうひとつ不可欠なのは問題解決力です。警察には実にさまざまな問題が持ち込まれます。DVやストーカーなど事件性のあるものから、猫の死骸があるとか、隣人とのいざこざ、企業の問題・・・。それらを上手く解決する力が求められる場所なのです。最終的に頼りにされるところとして、結果を出さないといけない責任があります。

小西 私も同じ考えです。様々な人に対応しないといけないので、柔軟に対応できるだけの力。いろんな相手に真摯に向き合うことができるのも、資質としては必要だろうと思う。

20140520law1-1-3山本 問題解決力という言葉が出ましたが、新しい課題に直面したり、新しい解決策を考えないといけない時がそんなに多くあるのですか?

佐矢野 例えば、同じDVの問題でも子どもがいるかいないかとか、カップルや夫婦の年齢とか一つ一つ全部違いますから、新しい解決策を求められる場合は多いです。

小西 時代とともに解決策も変化します。昔は検挙が優先だったけれど、今は予防にシフトしてきました。被害が発生してから犯人を捕まえても、被害が元にもどるわけじゃないですから。被害者を出さないということを考えたときは、先を予測しながら対策を考えていく力も必要になってきます。

山本 刑事の仕事と防犯の仕事では正反対の発想が必要な印象があります。捜査から生活安全に異動された時には、頭の切り替えが大変ではなかったですか?

小西 私も佐矢野管理官も、切り替えができたから異動があったのだろうと思います。職人のような刑事さんも必要ですが、柔軟性によって就くポストが違ってくるのが警察組織です。

 

― 柔軟であるために、どんなことを心がけていますか?

20140520law2小西 僕は人とのネットワークですね。いろいろな人から教えていただく。

佐矢野 その通りですね。いろんな人と会うこと。生活安全になってから本当にいろいろな人に会いました。刑事と生活安全では会う人が違ってきました。企業のトップ、大学の先生、議員の先生と接することが多くなってきます。考え方や視点は、人に学ぶところが多い。

小西 ネットワークを築ける力があるかどうかは非常に重要です。捜査も同じなんですよ。いろいろな人から話を聞き出す。被疑者の調べも聞き込みもその力がないと話してもらえないですから。

佐矢野 山本先生との出会いもそうでした。大学の先生が「地域安全マップづくり」をやってる。おもしろそうだから話を聞きたい。とにかく会ってみようという感じですね。

小西 私も東京出張の際に、この先生おもしろいなと思った時は菓子折り持って押しかけて、その後講演に来てもらったり。一つひとつネットワークを作ってきました。

佐矢野 私も福岡でいろいろな先生を探して回ったんですよ。ハード系の先生はいらっしゃるんですが、ソフト系の先生はなかなかいらっしゃらないと思っていたところでした。

山本 本学の教員から、広島でいろんな大学の学生を集めて団体を作って、地域安全マップづくりをやっている警察官がいると聞いて、訪ねていったのが小西さんでした。見学してやり方を教えていただき、九国大でも始めたところ、即、佐矢野さんが来られた。ネットワークづくりに長けたお二人に見出されたのです(笑)

 

― そういった仕事の仕方というのは、教えてもらえたんですか?

佐矢野 まったく教えてもらってないですね(笑)

小西 予防に力を入れ始めたのは、最近の話なんです。10数年前に犯罪のピークがあって、抑止をしていかなきゃならんという話にシフトしてきた。その走りですから、我々自身が手探りで進めて来たという感じです。

20140520law4山本 KITAMAP(リンク)を作った時に、佐矢野さんには企業を回って物資の提供をしていただきました。防犯冊子を作られた時も広告を取るために企業回りをされていましたね。

佐矢野 営業マンでしたね(笑)。TOTOに行ったり、ゼンリンに行ったり。この春に小倉北署に移った時も企業回りをしました。何かの時に役立つし、訪問するとなにかしら情報は入って来ます。今からは警察でも営業というかそうした姿勢は重要だと思います。

小西 広島では活動資金を捻出するのに、自動販売機の収益の一部を地域の防犯活動に使う取り組みを実践し、まず警察署の自動販売機から変えました。

山本 それは警察官の仕事なのかと思うかもしれないけれど、そこから始めないと何もできないし何も変わらない。関係者を説得して費用を捻出したり、効果が出たことを証明して、次につなげていく。実は民間企業の活動と似ているところがあるんです。

佐矢野 企業を納得させるだけのプレゼンテーション資料も作らないといけないですし。会社のメリットをはっきりさせて、フィードバックもしないといけませんしね。

小西 そういうことを考えるのは楽しいですね。直接人から喜ばれることも多いです。

佐矢野 営利を目的としていないから、企業の方にも言いやすいですよね。

小西 企業や大学も、社会的に信用が築けるメリットもあります。

山本 こういった話はぜひ学生に聞かせたい。新しい警察官像というか、テレビドラマではわからないことが見えてきます。

 

― 警察官の仕事に対するイメージが大きく変わるようなお話ですね

山本 最近では、防犯は行政の仕事にもなってきました。それとともに、警察の人事交流も県だけでなく市町村レベルでも行われていて、警察官の仕事がすごく広がっている感じがします。警察と行政の連携が深まり、さらにそこに地域が加わってきています。

20140520law3小西 以前にも交通や青少年問題では多少の人事交流はあったけれど、犯罪予防ではあまりありませんでした。

佐矢野 私が県庁に派遣されたのも、その一環です。

小西 現在の犯罪件数はピークの頃に比べると半分程度になっています。この10年間で、地域ボランティアが増えて、防犯パトロールをする人が増えました。地域の人が立ち上がって、治安を良くする活動を始めた。ボランティアは右肩上がりに増加し、犯罪は右肩下がりに減りました。警察も行政も、大学も地域も企業もそれぞれの役割を果たしていくことが、大きな効果を上げるのです。大学は知的なこともあれば、学生の活動もある。それを果たしていくことで地域の治安が良くなっていくのだと思います。

 

― 大学との連携には警察も積極的なのですか?

山本 3,4年前に警察庁が学生ボランティアを活性化しようという方針を出しました。

小西 ボランティアはどうしても退職された高齢の方が多くて、体力的にもいつまで続くかわからない。そこに大学生が入ることで高齢の方も活性化します。子どもも安全マップづくりをする大学生を見ている。自分たちも大人になったら、社会に貢献することをしないといけないんだと思う。それが子ども自身の規範意識を高めるし、青少年育成につながる。好循環なんですよね。大学生は必要なんです。

山本 もともと日本はボランティアに参加する人が少ないんですね。参加したくてもやり方がわからない人が多い。大学生のうちに経験しておくと、社会に出て、若いうちは仕事が忙しくてできなくても、少し余裕が出てきた時に入っていきやすい。大学時代にボランティアをするのは社会に出る準備としてだけでなく、生涯にわたって地域活動をしていくための種まきになっていくのかなと思います。

小西 子どもにとっては、大学生がやってると、自分もやってみたいと思うんです。広島でアンケートしたら、自分たちもその大学に行きたい。お兄ちゃん、お姉ちゃんに卒業しないで一緒にやろうよと書いていました。10年前の暴走族時代には、特攻服がかっこいいから暴走族に入る少年もいました(笑)。いい”憧れヒーロー”に大学生にはなっていただきたい。

山本 お昼休みは「遊んで―」って群がってくるから、学生たちは大変(笑)

小西 高齢者も群がって来ない? 膝が痛くて歩けないと言ってた人が、女子学生に誘われて2キロ歩いたりして(笑)。全体が活性化します。

佐矢野 地域にとって、大学生は大切なものだと思いますね。

山本 大学としても学生の活動をしっかり支えていかないといけない。学生だけに任せておくと、初めはやる気のある学生が多いけれど、尻すぼみになることもあります。手間はかかります。

佐矢野 継続することが大切ですからね。

 

― 公務員をめざす学生にとって、ボランティアをする意味は?

山本 警察官や行政職員は、地域の課題を解決するのが仕事なので、学生時代に地域の課題を肌身で感じておくことは、警察官などの職業をめざす上で非常に大事だと考えます。公務員は安定してるとか、警察官ってかっこいいとか、憧れでもいいんだけど、目の前の子どもとかお年寄りが今どういう状況にあって、警察や行政がどういうことをやっているかを知っておくことは、自分の目標を見据える上で大事です。それに、学力だけじゃなくて、社会経験を通じて伸びる力、つまりコミュニケーション能力や自主性を伸ばすためには、意識していろいろな経験を積んでおいた方がいいと思います。

佐矢野 採用する側から見ても、多様性のある人を求めています。私の場合ですが、大学生の時はいろいろなアルバイトをしてきました。家庭教師から建設業、塗装業や魚屋まで。こういうことができるのは、大学の間だけ。大学時代にいろいろなことを経験して、いろいろな人と接して、社会を見てきた、常識を見てきた人が求められるのかなと思います。経験・体験の中で知識として身につけたものを、警察の中で活かしたいと確固たるものを持っているような人材が欲しいです。

小西 警察は人を相手にする現場の仕事がかなりあります。いろいろな人に対して柔軟に対応できる力はまず必要です。瀬戸内海の島で魚を売ってる人が目撃者の場合、警察手帳を見せて「何々知りませんか?」と聞いても、相手は構えて絶対に言わないんですよね。テレビドラマみたいに手帳をチラッと見せても、いい話は聞けません。そうじゃなくて、この魚なに? 刺身にしたらおいしそうだねって一つ二つ買って、それで実は警察なんだけど、と切り出せば話もしてくれるんですよ。それができるかどうか。

山本 すごい捜査術ですね(笑)

小西 それができる人は、アルバイトをはじめ、社会経験を積んでることが糧になってるようです。

山本 4年間勉強だけじゃなくて、いろいろなことを経験しておくことが大事だということですね。

小西 勉強しかして来なかった人は、教科書どおりのことしか言わなくて、本来住民が思ってることや期待してることとかけ離れた結論が出ちゃうことがあるんですよね。

 

― 最近の若い警察官を見て思うことはありますか?

佐矢野 最近の若い人は、駐車違反とか取り締まりを否認されるのが怖いと言ったりします。「何で悪いんだ」と逆切れされたり、クレームを受けることが苦手。でも学生時代にコンビニで働いていたら、クレームは普通に受けますよね。クレームを自分から進んで経験していく、解決していくことが後々活きてきます。

山本 人を説得するとか対立を乗り越えるといったことですよね。

小西 困難から逃げることばかりやってると、下手すると隠匿につながります。

佐矢野 今の警察でも上司に怒られるのを怖がって、失敗をちゃんと報告できない人がいます。

山本 企業でも「ほうれんそう」をきちんとできる人を求めているんですけど、「ほうれんそう」がいかに深い行為であるかがわかりますよね。上司に対して失敗も含めて正直にオープンにできるかどうかが問われているという。

佐矢野 「ほうれんそう」ができる人が上司になると、話しやすいし、職場環境も変わります。上にいったら話しやすい雰囲気を作ってあげないといけないですね。

小西 問題が起きると、どうするんだと慌てるばかりで、責任を下に押し付けることだけはしてはいけない(笑)。

佐矢野 私もけっして怒らないように気をつけています。報告を受けた時に怒ったら、報告が来なくなるんですよ。常に機嫌よくしていく。機嫌が悪い人のところには行きたくないでしょ。

小西 悪い報告はむしろ褒めるくらいでないと。言う方も大変だと思うんです。

佐矢野 「いい報告は明日でもいいけど、悪い報告は昨日欲しかった」って言いますね。

 

― リスクマネジメントコースに期待することは何ですか?

小西 地域と一緒になって活動するプログラムは、日本の大学ではまだまだ少ないと思います。学生自身も社会人としての基礎的な知識を身につけて、公務員として即戦力になるように育ってくれると思います。大学のある周りの地域も、地域住民が一緒に活動することで活性化するし、治安も良くなっていく。今、九州国際大学法学部がその中核を担っていただいているのはありがたいですね。どんどんいろいろな大学がやって欲しいと思うくらいです。

佐矢野 大学と接点を持つメリットに、違う目線で見てもらえるということがあります。研究分析をして社会に発信してもらいたい。そういう意味では、山本先生が今年の卒業生たちとまとめた万引き調査(リンク)は良かったですね。警察も一人の担当者が、万引きもコンビニ強盗も性犯罪もといろいろなことをやっており、資料を集めて分析まではとても手が回りません。学生の力を使いながらまとめていただいて、その結果に基づいた対策を大学から発信していただけるのは非常にありがたいですね。それをもとに施策を考えたり、企業へ具体的な働きかけができます。

山本 九国大法学部のリスクマネジメントコースは、課題解決力をつけることと経験を積むことを目標にしています。課題解決力は教室で身につける力で、経験は地域連携活動を通して身につける力。今日話を伺っていて、両方が警察官にとっては非常に大事だと思いました。もちろん、それは警察官に限りません。お二人のように、とても柔軟でいろいろなことにチャレンジして、それをおもしろいと思ってどんどん新しいことをやっていく、現状を突破していく。それは民間企業でも求められる力です。警察官に限らず企業でも活躍できる人材育成をしていると思います。

佐矢野 我々の大学時代は講義を聞いて、試験を受けるばかりでした。それが地域に出たり、みんなでディスカッションをして、計画を立てて、実行してみて、効果を検証していく。そういう環境を大学が作ってくれるのが、すごくいいと思います。単に学力さえよければいいという時代は終わったと私は感じています。福岡県警も多様な人材を求めているので、面接重視、人間の深みを見るのが一番の採用基準です。そういう人材を輩出して欲しいというのが、警察の期待であり、先輩としての期待です。

写真左から 佐矢野俊警視(福岡県警)、山本啓一(本学教授)、小西明警視(広島県警)
20140516law

■「警察との連携の中で、地域安全マップを行ってきた学生たちが、警察官試験に合格しています」
グッジョブ!「公務員合格編(熊本県警本部)」-三浦晃大さん(リンク)
グッジョブ!「公務員合格編(宮崎県警本部)」-小野泰人さん(リンク)