[地域貢献] 北九州文学サロン-松井貴英- 講演「松本零士とその時代」、満席でした!


令和5年8月18日と9月22日の二回、小倉は京町にある北九州文学サロンで「松本零士とその時代」と題して話をしてきました。

8月の初回は、「漫画は戦争をどのように描いてきたか」というテーマで、次のような話をしました。
戦前の漫画では、たとえば『のらくろ』や戦前の子供向けアニメにおいては、プロパガンダの要素が色濃くみられます。それに対して、戦後になるとそのような色合いは無くなり、たとえば水木しげるの作品おいては戦争中の従軍体験の影響が見られたり、手塚治虫の作品の中には、軍需工場で遭遇した空襲の影響が見られたりします。
その他には、白土三平の作品においては、戦争の影響が初期の作品などにも見られたり、辰巳ヨシヒロが戦争を描いた諸作品においては、戦争を題材として人間の悲哀を描いた作品なども見られたりします。

これらの話をした後、松本零士が戦争をどのように描いたかについての話を進めていきました。
松本零士は、戦闘機漫画である「成層圏戦闘機」等において人間の内面を描写していたり、『宇宙戦艦ヤマト』において戦争においては誰もが可能性として死にゆくものであるという避けられない事実や、戦争と終戦後の日本の廃墟からの再生という希望を描いていたり、『ダンガードA』においてはロボットを平和と友情の使者として象徴的に描いていたりする点に、彼の作家としての個性を読みとることができるという話をしました。

9月の2回目は、「漫画が描く「こども」」というテーマで、次のような話をしました。
まず、現代思想の観点から「子ども(という概念)の発見」について解説し、それに続いて『ハイジ』や『少女ポリアンナ』といった欧米の少女小説において、子供がキリスト教に基づきつつどのような大人となることが求められたのかについての話をしました。
次に、それと対比的に、日本の戦後の漫画において少年はどのように描かれてきたかについて、初期の手塚治虫や劇画の黎明期(特に1957年における『影』や『街』の創刊号)において、少年が主人公として描かれた作品を概観していきました。


また、藤子・F・不二雄『オバケのQ太郎』『ドラえもん』といった長期連載ギャグ漫画における年齢を重ねることがない(おそらく10歳のまま描かれ続けている)登場人物に言及したりもしました。
これらの話をした後、松本零士がこどもをどのように描いたかについての話を進めていきました。
松本零士については、『銀河鉄道999』等を参照しながら、主人公の内面的成長が描かれていたといえるだろうという自身の解釈を話しました。また、少年についてというわけではないですが、エメラルダスやトチローについての話や、ハーロックが漫画版『宇宙戦艦ヤマト』に登場していたり、読み切り短編版の『大海賊ハーロック』(初出:『漫画ゴラク DOKUHON』1970年5月13日増刊号)においてアイパッチが描かれるようになった話等、松本零士の作品世界の話をするなどしました。

今回、来場してくださった聴衆の皆さま、北九州文学サロンのスタッフの皆さまはもちろん、「九州国際大学にこのようなユニークな研究をしている松井という人がいる」と北九州文学サロンに紹介してくださった古本や檸檬さんにも、このような話をする機会とご縁をくださったこと、感謝しています。

【原稿:松井貴英(現代ビジネス学部)】